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森に入る事を考慮して、長めのブーツをチョイスし、靴紐を縛ると、ドアを開け、廊下に出た。
回の字状の廊下に沿って、実に30もの個室が設けられているこの寮の規模は大したものだと思う。
4隅に階段が設けられており、俺の足も必然的にそのうちの1つへ向かう事になる。
回の字状になっている建物には中庭があり、そちらに面した壁はガラス張りになっている。
中庭には、この辺りにしては珍しく、大きく育った植物達が植えてある。孤児たちに、少しでも自然に触れながら育って欲しいという院長の希望らしい。
サザンカに、サクラ、ツバキにツツジといった木々が、太陽の光をいっぱいに浴び、気持ち良さそうに緑の葉を広げて、木陰を揺らしているその様は、院長の意図通り、俺を含めたここの孤児達に少なからず安らかな気持ちを与えてくれる。
そんな中庭を右手にを眺めながら、コツコツと調子良くブーツを鳴らして歩いていると…
ガチャリ、という音と共に、階段のすぐ隣のドアが開き、人が出てきた。
ラズベリー色をした、美しいストレートのロングヘアー。小さく華奢な身体に、白のブラウス、ブラウンのミニスカート、黒のブーツ。
体格と同様、童顔の、可愛らしい少女に見える。
…外見だけは。
「げっ、ロスト…」
彼女は、俺の顔を見るなり頭に手をやって、
「今日は仕事だってのに…幸先悪いな、こりゃ…」
そんな事を平気で言う。
「アイリス…」
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