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翌日の午後4時過ぎ。
俺はかれこれ2時間、東京のとある公園のベンチに腰掛けていた。
膝の上でノートパソコンを開き、仕事を片付けていたのだが……、それが趣旨ではない。
ほら、やっと、来た。
「あぁー! ナリさんだー!」
俺の元に駆け寄ってくる小学生の男児4、5人。
その中に、小学3年生になった遠藤慶音はいた。
久々の慶音の姿に、俺の頬は緩む。
「よぉ慶音、みんな。元気だったか?」
「元気だよー!
久しぶりだね! 半年ぶりくらい?
お仕事大変なの?」
「質問攻めだなぁ、ふふふ。
お仕事大変だったぜ、お前らに会うのがすっごい待ち遠しかった」
「おれもだよ!
ねーねー、今日は何して遊ぼうか……」
俺と慶音は3年前くらいにここの公園で出会い、“友達”になった。
仕事で東京に来て、……慶音のことを思い出し、遠藤家の周辺を当てもなくフラフラとさまよっていたところ、公園で遊んでいた慶音と遭遇した訳だ。
それから慶音がちょくちょくこの公園で遊んでいることを知り、年に2、3回仕事がこっちの方である度に慶音に会っている。
……もちろん、美登里さんにも高俊にも内緒で。
「今日はサッカーしようぜ!
ボールも持ってきたし!」
「あっ、オジサンはキーパーな!」
……しかし慶音と1対1で会うことはない。
俺と慶音はもう、親子ではない。
2人だけの時間というのはもう、たぶん一生与えられないのだろう。
……今慶音を連れ帰ったら、高俊は受け入れてくれるだろうか。
慶音の笑ったり、興奮したり、俺の名前を呼ぶのを見る度に、俺の胸はどうしようもなく締め付けられる。
連れて帰りたい。強引にでも手を引いて我が家へ……。
そんな欲を、慶音を手放したあの日のことを思い出しては捻り潰そうとする。
そうして楽しくて心苦しい時間はすぐに過ぎ去り、子どもは帰る時間になる。
そうして慶音と別れる時は、毎回決まって耳打ちをして約束をする。
「慶音、今日もお母さんにはナリさんと遊んだことは秘密な」
「うん。男の約束、でしょ?」
「……そうだよ」
そうして慶音の後ろ姿を見送り、俺は今日も唇を噛み締めてその場を去った。
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