1008人が本棚に入れています
本棚に追加
______________________
数日後ーー
都内某所
俺は近藤との約束の定刻ちょうどに訪れた。
場所は彼が指定した、何かの廃工場。
近藤はいなかった。
俺は落ち着かずに、そわそわして彼の到着を待った。
「よお先輩。久しぶりですねえー」
近藤がひらひらと手を振りながら、悪びれる様子もなく近づいてくる。
10分遅れだ。
俺は唇を固く結んで近藤を見据えた。
「お元気でしたか? 」
「お前こそ……、変わりないようだけどな。見た目は」
近藤はフッと小さく笑った。
「痩せましたよ。5キロくらい。
頬も痩けたと思いますけどねえ」
「……カイちゃんのこと、冥福を祈らせてもらうよ」
「……」
”カイちゃん”の名前が出た途端に、近藤はキッと俺を睨んだ。
「調べたよ。事件のこと。
暴力団の……、組頭の娘さんだったんだな。
俺も8年前、突然明香音を失ったんだ……。
気持ちは分からないでもないよ」
「オレの気持ちがわかる、だあ?」
近藤が眉間にシワを寄せて大声で言うので、俺は一瞬怯む。
「カイはな、殺されたんだよ!
しかも、カイ自身は何も悪くねえんだ……。
周りの人間の都合のために殺されたんだよあいつはあ!」
「……っ、その周りってのが、長井総理なのか?」
「……ちっ、察しが早くて助かるぜ」
「……だからって、殺していい筈がないだろ」
俺はポツリと、慎重に言った。
怖い。今のこいつは。
こいつの起爆剤のスイッチは、随分浅い所にある気がする。
「……は? 説教ですかあ?」
「説教、じゃねーよ。
流石にそれくらいのことは、分かるだろお前も」
「何一つ分かってないのはテメエだ糸原高成い!」
「っ……!」
近藤は突然俺に掴みかかってきた。
「何が『気持ちは分かる』だあ?
お前は本当に誰かを殺してえ程憎んだことがあるのか?」
「に、憎むのは当然だと思う。
事実を隠して長井はのうのうとしてるんだもんな。
でも、報復するなら何も殺さなくても……」
「だから分かってねえんだよ!」
近藤は俺を突き飛ばした。
俺は仰向けに背中を打ち付ける。
_
最初のコメントを投稿しよう!