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近藤は俺の頭上から口を開く。
「『殺すことはない』?
オレはアイツをぶっ殺してえんだよ!
それ以下の報復はねえ。カイに死んで詫びてもらう!」
「だったら……、自分でやればいいだろ!?」
本音が漏れる。
「自分でやればいい……!
俺や高俊には、……言っちゃ悪いが、お前の復讐に付き合う理由はないだろぉ!?」
「……アッハハハハ」
「はぁ!?」
突然笑い出した近藤に、もう俺はついていけない。
「ホラ、それが本音だろ。
お前は長井のことなんかどーでもいいんだ。殺されても。
テメエらが巻き込まれたくないだけだろお?」
「ど、どうでもよくなんか……!」
「なぁ、糸原先輩?」
近藤は急に甘えたような声を出して、しゃがんで俺と目線を合わせる。
「いい先輩ってのは、困った後輩を助けるもんだろお?
そしてアンタはいい先輩だ」
「なら、誤った道に行こうとしてるのを引き留めるのも先輩の役割だ!」
「バーカ。オレは正しいよ。間違ってるのは長井だ。
人殺しをしておいて何食わぬ顔をしている長井だよ」
「それは……、間違ってない。
でも、殺すのは……」
「殺しが悪だと決めたのは誰だ?
長井みてえな御役人が決めたんだろ?
戦時中は?
殺しが当然で正義だろ?
それは誰が決めた?
御役人だろお??」
近藤は血走った目で喋り続ける。
駄目だ、俺までつられてヒートアップしてちゃ、解決しない……。
「……っ。
駄目だ近藤……、今は戦時中じゃない……。
例えがおかしいぞそれは。
絶対、一回頭を冷やせば冷静に……」
「先輩。オレ組に入ったんですよ。
で、オレがサツに捕まれば組に迷惑かかるワケ。
だからさあ、頼むよセンパーイ」
近藤は、ほくそ笑んだ。
「オレの代わりに、死んでくださいよ」
「はっ……」
俺は近藤の顔から目が離せなくなってしまった。
あっ……そうか。
長井を殺そうとするって、つまり。
そういうことなのか。
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