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「し、死にたくない……」
俺は震えた声で言った。
「何で、何で俺が死ななきゃならないんだよおお!」
「はあ? だったら代わりに息子が死ぬかあ?」
「いい加減にしろお!」
俺は立ち上がってへっぴり腰で、懐から隠し持っていた拳銃を近藤に向けた。
先日近藤が送ってきた銃だ。
「長井を殺して、罰せられて死ぬくらいなら!
ここでお前を殺してやるぅ!」
怖くて怖くて声が裏返って、手が震えて、近藤の顔が見れない。
近藤が今どんな顔をしてるかわからーー
「アッハハハハハ」
「は……!?」
近藤は、笑っていた。
そして銃口を向けられているのにも関わらず、怖気付くことなく俺に向かって歩いてきたのだ。
怖気付いたのは俺の方だった。
近藤の気迫に押され、俺はゆっくりと銃口を向けたまま後退する。
「オレがわざわざ取説付けてやったのによお。読んでねえのかあ?
それは麻酔銃だよ、クク、人は殺せねえ」
「っ……」
「いや…….、それともわざとかあ?
銃を脅しに使いたいが本当に人を殺せる道具を持ちたくないから、とか?」
「こ、これは……、お前を眠らせてから……」
「殺すのか?
到底あんたに出来るようには思わねえけどなあ!」
「俺は、俺は本気で、お前を……!」
脳裏に、近藤と飲みに行った光景が浮かんだ。
俺はカイちゃんとののろけ話を、近藤は高俊の自慢話をお互いに聞きあって。
笑ったり、突っ込んだり、時には相談に乗ったり。
それが、……信じられない。
こいつは近藤じゃない。俺の知ってる近藤じゃ……。
「バカだなあんたは、本当にバカ。
自分から弱みをペラペラ晒しやかって」
近藤は、俺が握る麻酔銃を上から押さえつけた。
「バーカ。自業自得だよ。
クククク……」
「頼む……、頼むよ。
高俊は今受験で……、人生で一番大事な時なんだ。
そんな時にこんな……、こんな!」
「うっせえんだよ!
もう口答えするなオレに!」
「なあ、ほんとに、本当に……。
高俊は関係ないんだ。頼む! 勘弁してくれ!
どうやったら許してくれる!?」
俺が泣きそうな声で言うと、近藤はポツリと言った。
「じゃあ、土下座しろよ」
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