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……それからと言うものの、ほぼ毎日だ。
俺のメールに、近藤から高俊の盗撮写真が送られてくる様になったのは。
服装はその当日のもので間違えない……、ということは、高俊は常に近藤の手の人間によって監視されているということだ。
だがそんな事、今勉強で必死な高俊には言えず。
近藤の要求する期日が、着実に近づく。
俺は本当に、長井総理を殺せるのか?
いや、もし仮に成功したとしても。
高俊には『殺人犯の息子』という汚名を着させてしまう。
そしてその場に、俺はいる事は出来ないだろう。それで高俊が幸せになれるはずがない。
逃げるしかないのか?
しかし、高俊が監視されている以上すぐに追いかけられる。
逃げ切れる気が全くしない。最悪二人揃って殺される…なんてこともあり得る……。
そんな堂々巡りを一人で繰り返し。誰にも打ち明ける事が出来ず。
俺は次第に追い込まれていった。
だから、思わず。
高俊に「ディズニーランドに行かないか」と言ってしまった事は、後悔している。
いや、もし例え「行こう」と言われても、冗談だよ、と笑って返していただろう。
もう、たぶん、一生、叶わぬ夢になるのだろう。
そうして期日の3日前から、俺は高俊宛に手紙を書いては消し、書いては消し…と繰り返していた。
何を書いても言い訳になってしまう。
何度謝ったところで、高俊を絶望から救い出せはしない……。
……ただ、高俊にとって唯一の希望は、もしかしたら慶音になるかもしれない。
『もう俺たち親子とは関わらない』という美登里さんとの約束は、破ることになってしまうが……。
それでも、それだけが、俺が高俊に残してやれる事だった。
今のあいつなら、きっと、全てを理解して慶音を大切にしてくれるだろう。
俺は美登里さんにも、丁寧に丁寧に言葉を選んで手紙を書いた。
……ただ肝心の高俊に宛てた手紙に、美登里さんの家の住所は書いたものの、名前を書き忘れた事に気付かなかったが……。
ふと、携帯の昔の動画を見返した。
『高俊・9歳誕生日』
暗い部屋で、俺はそれを再生した。
『えー、どうも。
今日は20#8年3月21日です。
はい、なんの日ですか明香音さん!』
懐かしい、元気な頃の明香音が映る。
『はーい、今日は記念すべき糸原高俊くんの9歳の誕生日でーす!』
『ピンポンピンポンピンポーン!
正解でーす!
明香音さんに10点!』
「はは……、馬鹿じゃねえの本当に。
ホント、幸せ馬鹿……」
ぐずぐずと、涙が溢れてくる。
俺はその動画を、何度も何度も見返した。
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