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12月3日。時刻は17時を回ったーー。
俺は最低限の荷物を持って、国会議事堂前に立っていた。
ポケットには二丁の麻酔銃と、一丁の光線銃。
冬だというのに、額には嫌な汗が滲み出す。
冬だからではないが、先程から手足が小刻みに震えている。
「いいか……?
総理を殺すことは、何も高俊クンのためだけじゃねえ」
隣の近藤が、俺の肩を組み耳元で言う。
「長井を忌み嫌うヤツは実に多い。お前はオレ達庶民の英雄になる。生死に関係なくな……」
「そんな事は、どうでもいいんだ……」
「長井が死ねば、641条だって変わる可能性がある。現に長井最大の反勢力の平野達も改正しようと動いているだろお?
お前の死罪も免れる可能性はゼロじゃない。
ただし、長井が死ねばの話だ」
「……! 本当か?」
「ゼロじゃない、と言ったからな。
だから確実に長井を殺せ……。
長井を殺せば、テメエが守りたいもの全てを守れるんだ」
「こんな事で……、本当に……」
「何度も言わせるんじゃねえ!
迷えばテメエの息子が死ぬだけだぜぇ??」
「っ……!」
俺は少し前進して、背中越しに近藤に言う。
「近藤……、これが全て終われば高俊にはもう一切関わらないと、約束してくれるな」
「ああ……、長井が死ねばな。
オレは、嘘はつかねえからよお。
クッフフフフ……、アハハハハ!」
ああ、近藤はいつだって有言実行する男だった。
納期は必ず守るし、出来ない仕事は出来ないと言う。
もう……、信じるしか俺には手がない。
俺は歩き出した。
「いいか、スピードが勝負だ。
国会内の警備員は銃を持っていねえ。ということは、肉弾戦に持ち込むよりも早く麻酔銃を打ち込め。
迷ったら、負けだ」
腹をくくれ……、俺。 ここに来たからには。
俺は、今日人を殺す。
高俊を守る為に。
明香音……、どうか俺に、勇気を……!
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