Love

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国会議事堂入り口の警備員に、麻酔銃を向けた辺りからはあまり記憶がない。 長井を殺す。 長井を殺す……。 とにかく無我夢中だった。そして迷いがなかった。 何故ならば、麻酔銃では人は死なないから。 そして、長井を殺せば、全てが丸く収まる。 俺は次々と現れる警備員を突破し、気づけばあっという間に本会議場内へと突入した。 「長井! 長井はどこだ!」 麻酔銃から光線銃に持ち替え、俺は銃口をあちこちに向ける。 至って平穏な空気が流れていた国会に、いくつもの悲鳴が響く。 そうして議場のほぼ中央に長井を見つけ、大股で近づいた。 ああ、出来る、俺なら。 高俊のため、今の無慈悲な感情の俺なら……。 俺は長井に光線銃の銃口を向けた。 その時、 急に地に足をつけたような、 周りの悲鳴が自分の身体をつんざくような、 自分の周りに空気が重くのしかかるような、 そんな感覚に襲われたのだ。 ……そう、戻って来たのだ。 今までの俺は、画面の向こうで主人公を見守る傍観者のように、俺を見つめていた様な。 あんな、強気に麻酔銃を撃てる俺は俺で俺じゃない。 しかし、銃口を向けた途端、向こうで客観視をしていた俺が戻って来たのだ。 人を……、殺す覚悟などない俺が! 「目的は……、何ですか……?」 長井はガクガクと震えて手を挙げていた。 そして俺の声も、手も、身体全てが震え出した。 ああ……、これは、現実だ。 俺は今現実のど真ん中に立っている。 これは俺が起こしてしまった、現実なのだ。 もう、逃げ出すことはできない。 「こ……、こんな暴政は止めてください。さもないと……撃ちますよ」 長井は口をパクパクとさせて、声が出ないようだった。 チャンスだ。撃て。撃つんだよ!!! 長井を殺しに来たんだろ!! 説得なんてする必要なんてない!! 撃てッ!!! 「止めろと言ってるんだぁ! こんなことを続けたって、誰も幸せになんか……」 ♪~ 「っ!!」 俺のポケットの携帯から着信音が鳴った。 ディズニーランドのパレードの行進曲だ。 その瞬間、俺の頭の中に高速に映像が流れ出した。 _
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