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何一つ不自由なことはない。 優しい両親、普通の公務員の家庭で、一人娘。 大切に育てられたと思う。 友達も少なくない程度に作れたし、成績も悪くはない。 それなのに、紗耶香にはどうしようもない穴があるのだ。 自分自身ですら飲み込んでしまうような穴。 覗き込んだら落ちてしまって、二度と今の自分に戻れないのかもしれない。 そしてそれは、男性といることでしか埋めることができないのだ。 次のターゲットを探さなくてはならない。 孝志に指輪を貰った時からそろそろ潮時だとは思っていたのだが。 居心地が良くてつい長居をしてしまった。 「ごめんね、孝志。」 紗耶香は一人ごちると、息を吐く。 もう次のターゲットのことしか考えていない。孝志は過去の男として紗耶香の脳から霧のように消えてしまっていた。
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