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「別れたいの」
食事を済ませ、車の中で夜景を見ながら寄り添っているときに紗耶香は切り出した。
孝志の顔は見えないけど、抱きしめる腕にかすかに力がこもる。
「もう、おしまい?」
平静を装った声で孝志が尋ねる。
紗耶香は顔を上げて言う。
「おしまいよ。孝志さん。」
孝志の傷ついた顔を胸に刻み付けるために。
孝志は泣きそうな顔をして微笑んでいた。
「分かっていたよ。君は俺なんて眼中にないって。」
「そう。」
あっさりと紗耶香が返すと、孝志は諦めたかのように肩を竦め、紗耶香を手放した。
「送るよ」
「ありがとう」
車の中には沈黙が垂れ込めていて、夜景だけが二人を包んでいた。
いつもの紗耶香の家の近くのコンビニに駐車すると、孝志は振り絞るような声で言う。
「紗耶香はどうか分からないけど。俺は本気で紗耶香が好きだったよ。ありがとう。」
紗耶香の体がぴくり、と動き無表情で孝志をゆっくり見つめる。
孝志にとっては、長くも感じたし短くも感じられる数秒間だった。
「私は、あなたを好きだと思ったことは一度もない。さよなら。」
パタン。
車のドアが閉じられ、孝志は一人取り残される。
二人を繋ぐものをすべて打ち切るような悲しい音だった。
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