君ノ影慕ヒテ

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獣道と化した戦前の車道を往けば、その洋館が眠る様に佇むのが見える。 去にし貿易商の誂えた結核療養所[サナトリウム]跡。 鏡面の湖畔を見下ろす忘れ去られた森の棺。 …百年前の遺物。       朽ちた蔓薔薇の抱く門をすり抜ければ、荒れて久しい庭の向こう。 碧玉の如く照り映える蔦が白亜の漆喰を艶やかになぞり、紅茶色の窓枠が点々と配列された美しい廃墟。       ――風葩邸[かざはなてい]は其処に在った。      
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