奇譚鎖ス白雪

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      物語のない世界で、 心だけを持て余していた。   冷たい手だから何処に伸ばしても振り払われた。 だったら何に触れるのもやめて、目を閉じよう。   外は冬でも、 夢の中なら暖かいから。       少女は願う。 少女は祈る。 けれど少女は期待しない。 春の訪れなど期待しない。   彼女は冬に恋をしていた。       「凍死してみたいの、  ――真っ白な雪の中で」       空に蓋をし。海を遠ざけ。 山を砦に。地を牢獄に。   丹砂より出でるミズガネの如く。   姿形を変えて尚、 少女は冬に溺れ続ける。      
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