5人が本棚に入れています
本棚に追加
[没稿]
冷ややかな空気の中、屋敷の前迄続く苔生した道を進む。
近い様で中々辿り着かない。
スピードを上げれば悪路に起因する激しい揺れに襲われる。
そうして徐行する間に余興を演ずるが如く窓の外で咲き誇るのは、荒れている様に見えた前庭の花。
白い大輪の花が庭の大半を埋め尽くしている。
「…丸で雪が積もっているよう」
ぽつり。
運転手はほんの一瞬ハンドルの操作を忘れ、怜悧且つ冷淡に伏せられた瞳を見開いた。
後部座席からはお決まりのやんわりとした嫌味が飛んでくるかと思いきや、樒は其れを予感していたと一目で解る所作でバックミラーに向けて微笑する。
煌々とした蜂蜜色に満ちる星ノ眼が毒気無く庭の白薔薇から照り返す陽光を映している。
珍しい、と言い掛けた唇を職業人然と引き結んで講釈を待った。
「説明と叱咤、何方が欲しいんだい?」
「…何方も」
「何方も君には不要なものだ」
自分からちらつかせておいて手を伸ばせばひょいと取り上げる彼の悪癖を憎たらしく思うのも彼女という一人の看護婦にとって今更の事。
そうして薔薇で出来た雪原を眺めながら言葉を幾つも膜無き水泡と帰着せしめる内に、化石とでも呼ぶべき古めかしい車は邸の前に到着していた。
距離と時間の間隙を突いて掛けられた魔法。
或いは、錯視[トリック]。
(此処で詰まって大幅変更しました。
次章へどうぞ)
最初のコメントを投稿しよう!