自分を囲う者

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例えば家が隣のくせに「ただいま~。」と、当然の事のように我が家に入ってくる幼なじみだったり、それに「お帰り。」と家族を迎えるがごとく返事をする弟だったり。ストレス発散のために狂ったように菓子作りに没頭している母親や、ソファに座りながら電話をしているんだろうが、未だ言葉を発しない妹。 我が家のリビングには今自分を合わせて5人の人間がいる。けれどもこれは少ない方で、普段ならこの倍の数の人間がこのさして広くはないリビングに集まっているのだ。 窮屈。 それならば自分の部屋に帰れば良いことなのだろうが、なぜかそれを許さない空気がこの部屋に充満している。 締め切った窓の外からは五月蝿く鳴く蝉の声が空調の作動音にかき消されながらも僅かに聞こえ、暖かとは言い難い刺すような太陽光がフローリングを眩く光らせている。 俺は冷たいペットボトルの水をゴクリと飲んだ。冷ややかな水が食道を通り、胃がじんわりと熱を無くす。そして小さな溜息にも似た深呼吸を一つして、今部屋に入ってきた男を見た。 「なんでお前ここにいるんだ?」 そう発した俺の言葉は大層低い声であっただろう。 男はその声にも動じず、ニコニコとしながらこちらに近寄ってきた。きっと遊んでくれる合図だとでも思ったのだろう。 残念ながら今日はお前の相手をしてやれるような気分ではないのだ。 さっさと帰れという意味も込めて睨みつけたが全く効果は無い。 もう10年以上の付き合いだ。分かっていたがやはりこうも効かないと深い溜息しか出てこない。 もしこれがこの男ではなく、学校のクラスメイトだとしたら軽く5メートルほどの距離を取られるであろう。 それほどまでに俺の睨みは人を凍らせ遠ざける効果があるらしい。 「無駄に顔が整ってるからそういう怒った表情や冷たい表情すると普通の人以上に怖いんだよね。」とはこの目の前に居る男の言葉だ。 どの面下げてそんな事が言えるのか。 俺はもう一度男を睨んだが、やはりニコニコしながら俺の目の前に立っている。 俺は観念し、深い溜息一つ吐いた。
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