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バクは、力なく手を降ろした。
指に止まっていた蝶がひらひらと不規則な軌道を描いて光の粒をまき散らす。
そのまま黒い塔の上へ上へと消えた。
「そうだね。俺がここでこの蝶を食べてしまえば簡単なんだ」
全てを諦めたような声で、バクが言葉を零していく。
やっと話してくれた、バクの心を紡ぐ言葉。
「だけど、そうしたら今の君は死んでしまう。『貘』として生きる道を強制的に選ばされてしまう」
少しだけ後ろに歩いて、それから階段に腰掛けた。
あたしの顔を見ようともしないまま、感情の吐露を続ける。
「俺は今までたくさんの悪夢を見てきたよ。『貘』は悪夢を食べないともたないんだ。そして今回やっと、『貘』の素質のある君に会えた」
それから両手で顔を覆って、うなだれた。
「……思い出したんだ。俺が食われたときの事を」
しばらくそうして黙っていたが、ゆっくりと顔を上げて、そしてあたしの目を見た。
「もう一人で『貘』として生きるのにも疲れたっていうのは本当なんだ。だけど次の犠牲者を出したくなんてない」
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