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「これだから若僧は使えねぇ」
その日、大仕事を終えたスカルはまだ駆け出しの若者に向かって、そう呟いた。戦後の好景気が少しずつ影を潜めつつあるアメリカの田舎町。禁酒法が敷かれ、闇酒を求めて人々は非合法組織にすらすがり付かざるを得ない。そろそろきな臭い噂があちこちで沸って騰く。あれだけもう戦争は嫌だと言っていた人々でさえ、あの時代は良かっと思えてくる。
この世の地獄が、今まさに再びそこまで足音を響かせつつあった。
今日の獲物はトラックに満載されたバーボン。スカルにとっては何と言うほどの事はない、簡単な仕事だった。ただ、駆け出しのヒヨッコにしてみればギャングを向こうに回す大仕事だ。それをスカルは見誤っていた。
イタリア系移民は血が熱い。一度火が着けば地の底まで追って来る。キング――当時はまだトニーと呼ばれていた――が失敗して顔をギャングの手下に見られてしまった。これは怪盗にとっては命取りだ。已む無くスカルはその手下達を皆殺しにしてしまった。スカルすれば、それとて『当たり前の事』だったのかも知れない。
だがまだ若いトニーにとっては衝撃的な事だった。目の前に塁々と築き上げられる死体の山。己の反省以上に沸き上がる怒りと恐れ。自分もそのうちこの連中と同じ目に遇うのかも知れないと思うだけで、身震いが止まらなかった。
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