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トニーはその時、若干十七歳。実のところ正確な年齢は定かではないが、近所の人の話だと、まだ若い両親が我が子を残して蒸発した。だから誕生日もそれを見付けて育て上げた養父母が勝手に付けたものだ。彼は十一歳でその養父母の家を飛び出した。それ以来、顔を見ていない。
彼を育てたのは両親でも養父母でもなく貧しくも豊かなスラムだ。そこで彼はあらゆる生きる手段を学んだ。反抗期すら感じる余裕もなく、ただ毎日生き残る為、裕福な家の前を彷徨いては、そこに出入りするきらびやかな衣装を纏った人間から、僅かながらの糧を戴く。
次第に薄れ行く罪悪感も、生きる為ともなれば無機質な感情へと変化する。スリも日々の生活の為。いつしか彼の周りには、同じように親を失った子供達が、慕って集まるようになっていた。
こんな時代、誰も望んではいない。
だが、彼には唯一、絶対にしないと誓った想いがあった。
どんなに苦しくても、人は殺さぬ事。単なる美学のようだが、周りの大人達の汚いやり方に、己だけでもそうならぬよう、弱肉強食の世にあって彼は心に固く誓った。
だからこそ周りからも慕われていたのかも知れない。汚れた大人からの目線ではなく、幼い子供達の目線から。
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