2つの影が重なる時代

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 トニーは憧れの怪盗を真似して、それまで一度も踏み入れた事のないマフィアの首領の家宅に侵入した。この手の家は、当時まだセキュリティと名の付く機械類が充実していなかった事もあって、手下の数で溢れ返っていた。ファミリーと言うにはまだまだ下っ端、されどそれは少しでも早く首領に認められたいと願う連中だけに、万が一見付かりでもすれば、当然だが命はない。  天井裏から金庫の眠る大広間へと侵入したトニーは、そこだけなぜか誰もいない状況に、喜びを隠せなかった。天は自分に味方しているんだ。盗むのなど容易い事なのだと。  だがそれは、先日、他組織が壊滅させられたが為に警戒されて張られた巧妙な罠だった。程なくして、間抜けな醜態を天井からぶら下げられた網の中で晒す、トニーの姿がそこにあった。もがけばもがくほど、絡み付いて身体の自由を奪う。  その音を聞き付けて、扉の向こうから、ぞろぞろと黒ずくめの男達が入ってきた。万事休す。この状況では、盗む事はおろか、逃げる事も出来ない。やがて、部屋の中は男達でいっぱいになった。  あとから入ってきた小太りの男が高らかに笑う。その拍子に口角にくわえられたハマキが落ち、男はそれを踏み消した。
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