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連中が混乱している最中、トニーを捕らえていた網が、音もなく天井裏に消えたのだが、声の主を探すのに必死で、混乱して余裕をなくした彼らはその事にまったく気付かなかった。その事に気付いたのは、かれこれ10分も経った頃、痺れを切らした男がガラスに向かってマシンガンを乱射した時だ。その時には既に、声の主も少年も姿を消していた。
「小僧、なんで俺がお前なんか盗まなきゃならんのだ」
それはこちらのセリフ。助けてくれと頼んだ覚えはない。トニーはその男を睨み付けた。
「まぁいい。俺の代わりに捕まったとあっちゃ、見過ごしには出来ないからな。もう二度とあんな連中と関わるんじゃないぞ」
焚き火に照らされた男が笑う。トニーは笑う気分にはなれず、下を向いた。
火の粉がバチバチと音を立てて顔面を襲う。
「名前はなんて言うんだ」
「……トニー。それ以外の名前は忘れた」
「親御さんはどうした。こんな時間までほっつき歩いて、心配しているんじゃないか?」
「俺に親なんかいいない」
「そうか、そりゃ変な事聞いて悪かったな」
「別にいいさ」
いきがってはみても、トニーはまだ少年。その実、未だに震えが止まらない。目の前の男の素性など、聞こうとする余裕もないのが現状だ。
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