2つの影が重なる時代

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「帰る場所はあるのか?」 「スラム。そこに仲間がいる」 「なら、ないのも同じだな。だったら俺と来るか?」  トニーはそこで、やっと顔を上げた。炎に照らされたまだ幼さの残るその顔で、初めて自分の存在を認めてくれた男の顔を真っ直ぐに見た。 「度胸だけはありそうだしな。俺はスカル。怪盗だ」  そこで初めてトニーは気が付いた。自分をあの窮地から『盗み出した』のが、自分の憧れの人物だと言う事に。 「俺に盗み出せない物はない。それが例え人間だろうとな」  夢にまでみた人物が、今目の前にいる。既に英雄像はトニーの中で勝手に膨らみ、今にもはち切れんばかりだ。そんな男が今、目の前にいて、あろう事か自分を誘っている。自分に着いて来いと。自分もあの憧れの怪盗になれるかも知れない。  トニーは小さく頷いた。
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