災いの火種

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 2月も半ばに差し掛かった頃、自宅の端末を前に、陽登と織人は肩を並べていた。 『…我々はここに独立を宣言する』 とうとう噂は現実となり、中部Under Cityが独立を成功させたのだ。 「…織人」 「あぁ…」  織人は俄かに陽登のテンションが上がるのを感じていた。  しかし、残念な事に泰志朗の組は未だに傘下へ加わる事を拒んでいる。中部の後を追ってすぐさまスノードームが独立するには厳しい状況だった。  それに、中部独立に活気づいたキャリア達を戒める為に、恐らくは南北地下都市の警備が強まる可能性が出て来るだろう。  これは前以って新藤が警告していた事で、泰志朗が加わっていない今、強まった警備に抵抗するのは無意味だと言わざるを得ない。  ちらりと横目で窺った陽登も厳しい顔付きをしていた。恐らく、織人と同じような事を考えているのだろう。 「大丈夫、チャンスは必ず巡ってくる」 気休めのようにそう言った織人に、陽登は画面を凝視したままで微かに頷いた。  地上では凍てつく寒風が吹き抜け、車道には光り輝く氷の膜が張ってきらきらとしている。  政府の対応はさすがに早かったと言え、世間を騒がすUnder City独立宣言の翌日には、今までに無いほど警備が強められた。駐屯所の人員が増員され、チップ感知システムの反応度数も大幅に上げられた。少しでも怪しい動きを見せれば、何をしていなくともたちまち逮捕され、嫌疑が晴れるまで何日も留置所に入れられる。  至る所で目を光らせる警備官に、ブリザード及び暴動組のキャリア達は息を潜め、大人しくしているしかなかった。  そんな折、予想もしていなかった泰志朗からの連絡が入る。その話を伝達係として直接受けたのは蓮士。  彼は、陽登の喫茶店にわざわざ足を運び、彼女にその話をした。それも、織人が仕事で居ない昼間を狙っての周到さで。 「志郎さんはどうしても、お前と2人っきりでと言うんだ」 蓮士は必死の形相で良い募る。彼とて独立に向けての気持ちは今や陽登と同じなのだ。 「だから陽登、頼む」 「………」  あからさまに嫌そうな顔をする陽登は、しかし蓮士の顔も立てなければと思う。けれど実の所、出来れば奴とは顔を合わせたくなかった。  それは、織人が居るからというのもあったが、奴とは些かならず会いたくない事情があるのだ。  陽登は無言のまま深い溜め息を吐く。
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