災いの火種

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 何がそんなに気に入らなかったのか。ミサキという女に見下されたのが気に入らなかったのか、たまたま会った織人の知り合いが夜の蝶だったからなのか、それとも…泰志朗との日々を彷彿とさせる視線を向けられたからなのか、織人が自分をただの仲間だと言ったからなのか…自分でも分からない。強いて言うのなら、全部だ。泰志朗との交渉へ向かい、ビルから出てホッとした所へこの仕打ち。  全部…そう、交渉から今までの全部が気に入らない。そして、こんな些細な事に触発され、いちいちイラついている自分も。  陽登は握り締めた拳を一層強く握る。自分の顔が無表情になっているのが分かった。  陽登の無表情を横目で見た氷刹は、彼女が最高潮に怒っていると察し、その無表情へかける言葉すら口に出来ず、陽登を挟み向こう側で青褪めるばかりの織人へと視線を向け、小さな溜め息と共に緩くかぶりを振る。  第三者の目から見ても、最悪の状況としか言えない。交渉からのこの流れは本当にタイミングが悪いとしか言えなかった。  元来、陽登は人見知りするような性格ではない。客商売をするくらいだから人当たりは良い方である。それに、どちらかというと心は広い方で、ミサキのようなぽっと出が現れたとしても軽くあしらえるだけの余裕は持ち得ているはずなのだ。それが、今回ばかりはあしらう事すら出来なかった。  これは確実に良くない兆候である。それくらいは氷刹にも分かった。  彼は、これが引き金となって一波乱起こるのではないかと、帰る道すがらそればかりを懸念していた。  陽登と氷刹が新藤の所へ結果報告に行ったその日の夜、ブリザードは緊急招集をかけられ会議室へと集まった。  どこか嬉しそうな雰囲気を振り撒いている新藤が、前置きも無く口を開く。 「泰志朗がようやく入った」 その言葉に目を丸くして驚いている隊員達の中で「マジかよっ!?」と第一声を発したのは霙だった。  それへ誘われるかのように、隊員達が喜びの声を上げる。  しかし、直接交渉へ向かった陽登と氷刹だけは笑わなかった。特に、陽登は言葉も掛けられないくらいに難しい顔をしている。  織人と氷刹はその様子を目にし、各々別の理由から更に不安を募らせていた。  とにもかくにも、これでスノードーム全体のキャリア達がブリザードの傘下へと治まったのだ。ひとしきり喜びの声を上げた後、一同は次の段階へと進むべく会議を続けた。
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