双方の想い

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 織人は、陽登が自分達キャリアについて常に心を砕き、憂いている事を知ってはいたが、まさか独立しようだなどと大それた事までを考えていたとは全く知らなかった。  彼女の最も傍に居るというそれだけで、陽登の全てを知った気になっていたのだろう。あまりにも近くに寄り過ぎて、一番大切な人の事をちゃんと見ていなかったのかもしれない事に、そこで初めて気付いた。  腕の中にある暖かい温もりを抱き締めると、未だに胸が切なく痛む。  彼女自身は間違いなく、ここに居る。今も自分の腕の中に居る。だが、その胸の内はどこに在る?  織人にも打ち明けず、ひっそりと独立への熱い思いを胸に抱いていたのだろうか。  確かに、キャリアは国に人間だと認められてはいない。一般人に疎まれ、虐げられ、監獄のような地下都市に寿司詰め状態で詰め込まれているというのが現状だ。  それで全てのキャリア達が満足出来ているとは微塵も思っていないが、気持ちの切り替え次第では、狭い世界ではあるものの地上とは何ら変わりの無い生活を送る事が出来る。決して悪い場所だとは言い切れないだろう。  住めば都とは良く言ったものだが、悪く言えば監獄、良く言えば地下都市とは、キャリアの楽園であると言えるかもしれない。いや、楽園とは少し言い過ぎなのだろうけれど、少なくとも地獄ではないし、望めば普通の生活であれ何であれ、自分の能力次第で叶えられる。  特に織人は、陽登という生涯を共にしたいと思える相手がおり、生活にも差して苦労が無かっただけに、自由になりたいとは思いもしなかった。  だが、織人が愛する女性(ヒト)は、自分は地上に住む人間と同じ人間なのだから、こんな場所に閉じ込められているのは間違いだと言う。  キャリアの能力が意思に反して暴走してしまうのはSMSキャリアに生り立てのおよそ1年の間だけで、2年目からは殆どの者が、得た能力をコントロールする事が出来るようになる。だから、最初の1年さえ気をつけていれば、地上に住む一般人達とも上手くやって行けるはずなのだ。そうでなければ、地下都市の警備をしている者達は今頃全滅している。  政府はそれを知っていて何故、こんな場所へと閉じ込めたりするのだろうか。
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