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赤毛の大柄な男は、足音を忍ばせながらせわしなく周りを確認していた。
そしてある一角で足をとめた。
コンコン、とレンガ造りの壁を叩く。
「俺だ、じい」
するとなんと壁がすっと上に動き、壁の中に空洞が現れた。
彼らがここに隠れ家を構えたのは1ヶ月前。それまでは、色々な国の町やスラム街を転々としていた。
男がその中に潜り込むと壁は再び閉ざされた。
中は意外と広く、小さな老人がちょこんと座って茶をすすっていた。
老人が男の方を見る。
「早かったのう……アレックス」
「ああ、凄いニュースがあったんだ」
「良いニュースかの?」
「ああ」
アレックス、と呼ばれた男はニッと笑った。
「姫さん…ローザが、この町に居た」
ガチャン!
じいやが湯飲みを落とす。
「それは……本当なんじゃな、アレックス」
「ああ、大きくなってたから初めは気がつかなかったが……あの声と、気の強さは間違いなく姫さんだ」
老人の手がぶるぶると震える。
「そうか……そうか……しかし何故この国に……いや、そんなことはどうでも良い……生きててくれただけで」
じいやは涙を流した。
「ローザ、生きておったか…良かった、本当に良かった。アレックス、どこで見たんじゃ。じいやにも会わせておくれ」
「……駄目だ」
アレックスは申し訳なさそうな顔で言った。
「姫さんを怪盗にしたくないだろ?」
「どういう意味じゃ……」
「じぃ、あんたは昔とほとんど変わらねぇ……姫さんはあんたはが誰だかすぐわかるだろう。そしたら俺達についてきたがるさ……俺達の今の職業が怪盗だとしてもな」
「……」
じいやは寂しそうに言った。
「なるほどな。ローザを怪盗にはしたくない……それはワシもそう思う」
怪盗は、あくまでも悪業なのだ。
アレックスは言った。
「まぁ俺も姫さんのことは気になるさ……だから、ライルという偽名を言っておいた。時々ライルとして姫さんに会って、じいにも姫さんがどうしてたのか伝える」
「……そうじゃな。頼むぞアレックス」
アレックスはうなずいた。
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