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コツ……コツ……。
静寂を破る足音。
優雅な足どりで、倒れている男達を一瞥する美女。名をローザと言う。
その美しさ、まさに暗闇に咲く薔薇のごとし。
しかしその顔にはまだ少し幼さが残る。
「貴方達みたいな悪者、命があっただけ有難いと思いなさい」
満足気に、手の中の大きな宝石を撫でるローザ。
「今日のは大物ね、これでしばらく暮らせるわ」
路地裏から抜け出し、明るい街中に足を踏み入れた。
すると見える世界は一変する。
「いらっしゃいいらっしゃい!そこの綺麗なおじょーちゃん、果物はいかが?」
「いやいや、こっちの魚も美味しいよ!」
声を張り上げ、新鮮な品々を売る商人達。
ここは市場で、活気に溢れた町。
何年か住んでいるから、どこに何の店があるのかは完璧にわかる。
「やぁローザ、美味しいコーヒーはいかが?」
馴染みの喫茶店の店主がにこやかにローザに話しかけてきた。
ローザは美しい微笑を店主に返した。
「残念だけど今日は行くところがあるの」
「そうか。じゃ、また今度な!」
店主は気を悪くした様子もなく手を振った。
この町の住民は皆優しく朗らかだ。
外人であり身寄りの無いローザでも、肩身を狭くせずにすみ本当に感謝している。
(まあ、怪盗をしていることは流石に内緒だけれど)
もちろんローザは大好きな町の人々から物を盗んだりはしない。
町の人々を脅かす悪党のみを相手にしている。
それが彼女のポリシーだった。
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