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「綺麗なお姉さん、お花はいりませんか」
商人達の威勢の良い声とは違う、幼くかぼそい声がローザを呼び止めた。
見るとみすぼらしい格好の少女が花を抱えて立っていた。
「お花は、どうですか。今日は特別に凄いお花があるんです。名前はわからないけど、凄く高いお花なんです」
少女は大事そうに一輪の花をとりだした。
「きっとお姉さんにぴったり……」
「……ありがとう」
ローザは微笑んだ。
「それは薔薇の花ね。好きな花よ。でも今現金が無いわ……そうだ!これでいいかしら」
ローザは真っ赤な薔薇を少女の手から受け取り、自分の手の中の宝石をさしだした。
少女が呆気にとられた顔で宝石を見つめた。
「いい?これはとても高いものなのよ。だから宝石商人にとても高く買い取ってもらいなさい。間違ってもパンなんかと交換しちゃ駄目よ」
「でもそんな高いもの……!」
そう言いながらも少女の瞳は宝石に釘付けだ。
「いいのよ、貴方には必要でしょ?」
優しく笑うローザに、少女はしばらく戸惑った様子を見せたがペコリとお辞儀をして去って行った。
ローザはその背を見送り呟いた。
「……まだ小さいのに、大変ね」
両親は居るのだろうか。毎日、ああやってみすぼらしい格好で花を売っているのだろうか。
どうしてもあのぐらいの子供、特に弱々しい女の子は見捨てることができない。
「……きっと、昔の私を思い出すからね」
昔……。
ローザはギュッと拳を握った。
昔はここ、イタリアから随分離れた国で暮らしていた。
そんなことを思うと、不意に寂しさに襲われる。
アレックス兄さん……ジャック兄さん……何処に居るの?
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