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東京都警察庁。
その第一事件会議室では、一週間前に起こったある事件の会議が行われていた。
その事件とは、ある企業の重役達が次々に殺される大量殺人事件だ。
この事件は発覚した一週間前から当然のごとくトップニュースになり、瞬く間に国民の誰もが知る事件となった。
その会議が今ここで行われているわけだ。
球場のような並びの300人は座れそうな白いベンチと、それに平行して白い机が並んでいて、前方には上役達の座る大きな机が三ヶ所にあり、中心から順に上役が座っている。
その中心には、警視監の荒木和雄が、机の上で肘をたて、手を組んでいる。
「いいか、今回の事件はきわめて凶悪な‥‥‥」
広い会議室にうるさいほどの野太い声がこだまする。
少なくとも、俺はそう思う。
正義面した偽善者の言ってることなど興味ない。
奴らが考えているのは自分の立場だけだ。
そうでないのは俺の両隣に並んで座っている高来先輩と上司の松岡警部くらいだろう。
この二人は俺が尊敬する数少ない警官で、真に事件を解決しようとする人達である。
そう、ネイトは思っている。
警部補である高来美紀は、重要な事件会議の中、一人だけ緊張感の欠けらもなくペン回しをしている警官が、自分の右隣にいるのに気付いた。
彼女の後輩、耳が隠れるくらいの艶のある髪に、パーツの整った顔を持ち、見るからにブランド品のスーツを着た杉沢高政だった。
逆に高来は、ブラウンの髪に赤い縁の眼鏡、透き通るような白い肌をもち、本庁内でも有名な美人である。
本人はまったくそうは思っていないが。
そして高来は、今日もいつものように杉沢に注意をする。
「ちょっと杉沢君?話し聞いてる?」
「聞いてますよ」
顔の前で回すペンから顔を移さず聞き流すような返事だった。
高来は警視の話を一言一句真面目にメモしているが。
杉沢はメモも何も執らず、ぼや~ってしている。
二人とも若く、同じ警部補だが、かなり対照的だ。
「しっかり聞きなさいよ、今回の事件はいつもとは違うんだから」
「大丈夫ですちゃんと聞いてますって」
依然としてペンは回しているが、顔だけはこちらに向けた。
「だったらせめてその態度はやめて、警視監に見つかったら摘み出されるよ」
「そうですね」
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