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まるで、その方が好都合といっているようだった。
高来はそれに軽く溜め息をついて、高政を挟むように座っている上司に声をかけた。
「松岡警部。警部からも言ってください」
「うん?」
松岡と呼ばれた男は少し眠たそうな返事をした。
この松岡は、本庁内では“豪腕”と呼ばれる凄腕の警察官であるが、今はそんな雰囲気はなかった。
とはいえ、我体のよさと眼光の鋭さを見れば、並の警官ではない事がわかる。
その松岡が、肩肘をついて話しだす。
「ふん、まあいいじゃねーか。どうせ‥‥」
「ではこれで終了だ。各自調査にあたってくれ」
そこで突然、警視監の話がおわった。
その時、高来はしまったと思った。
二人の会話に気をとられすぎて報告を聞き損ねてしまったのだ。
どうしようかとおろおろしていると、その様子を横目で見ていた杉沢がおもむろに口を開いた。
「一週間前に最初の被害者が殺された。さらにその翌日に二人目と三人目、どれも殺害方法に共通点はないがタイミングからいっても被害者が全員この企業の上役であることからいっても同一犯の犯行であることに間違いない。だが個人でできる犯行では到底ないため犯人は複数であるとが考えられる。さらに犯行現場からは何の手がかりも見つからない。プロの殺し屋であることも考慮しておけ。‥‥ですよ」
杉沢がなにを言っているのかわからず、高来が呆然としていると、松岡が先程とかわらぬ口調で話しだした。
「ほらな、どうせ全部覚えてる。さすがは天才」
「どうも」
と二人は顔をあわせ笑いながら席をたった。
高来も彼が人並みはずれた頭脳を持っていることは知っているのだが、それでもいつも驚かされる。
まさか話しながらも警視監の報告を聞いていてしかもすべて覚えていたというのか。
今だに信じられない。
本当かどうか確かめたいところだが、今聞きたいことは他にあった。
「あ‥あの‥杉沢くん」
「なんですか?」
「あの‥‥もう一回言ってくれない」
「‥‥いいですよ」
苦笑されながら言われた。
松岡も後ろで苦笑していた。
少し腹が立つ。
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