裏切り者と始まりの月夜

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「恋の悩みか?レティン」 と、皮肉のようにいったのは、向かいのデスクにいるクローゼだった。 彼は専用のデスクはもっていないので、今はたまたまそこにいた。 机を持たない理由は、 ――そんなもん必要ない だからだそうだ。 レティンは銃から目を離し、クローゼをいつものねむたそうな目で見て答える。 「いえ‥‥」 レティンが素っ気なくつぶやくと、クローゼはフンと鼻で小さく笑った。 「じゃあなに考えてんだ?お前が悩む事なんか、恋と野菜価格急騰以外になにがあるんだ?」 「野菜価格急騰はともかく‥‥、恋の悩みなんてありませんし、何なんですか?恋の悩み‥‥っていうのは‥‥?」 「ともかく、って‥‥真面目な台詞とは思えねぇな、突っ込みどころだらけなんだか‥‥」 半分冗談で言ったつもりだったクローゼだが、レティンは素直に、真面目に言ったのだった。 「‥‥クローゼさんは、恋の悩みってあるんですか?」 今度はレティンが話し掛ける。 いつも無口なレティンとしては珍しい。 「‥‥あると思うか?」 クローゼは不貞腐れるように答える。 「って事は、誰かに恋をしていると言う事ですか?」
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