‥‥盗み聞き

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三人は会議室から出て、 事務室に戻った。 オフィスとはいっても、松岡が室長を務める犯罪捜査課第三室のことである。 松岡を先頭に三人が部屋に入ると、中にいたスーツ姿の警官全員がすぐ様立ち上がり、部屋の中心にあるひときわ大きな机のまわりに集まる。 皆自分のデスクで仕事をしていたが、松岡が入ってくると部屋にいた約五十名が仕事をすぐに切りやめた。 その姿から、松岡の指揮官としての能力がどれだけ優れているのかうかがえた。 杉沢達三人は向かいの窓際に回り、机の端に立つ。 「というわけだ。俺たちは二人目の被害者を担当する。いいな」 『了解』 松岡の両脇にいた杉沢と高来も含め、全員が声を合わせて応えた。 その後は松岡の「解散」の一言とともに全員が即座に行動を開始した。 中には当然だが部屋から出て、外部調査をするものも多くいた。 高来も自分の机に着き、作業を開始した。 その作業はおそらく誰よりも真剣だっただろう。 彼女は女性警官でありながら人一倍犯罪に対する意識が強く、悪人を許さない人間である。 今日も三時間ほどずっと机に向かい、被害者の情報を集め整理していた。 オフィスの窓から見える空が夕焼けであかねいろに染まった頃、少し休憩しようかと席を立った。 その時、ちょうど同じタイミングで杉沢が席を立ち、松岡の机のある奥の室長室に入っていった。 中では他の警官たちが松岡と話し合いをしていたが、杉沢が部屋に入ったときその全員が席を外し、部屋から出たので不審に思った。 どうやら松岡が席を外すよう言ったらしい。 あの二人はときどきああして密談しているのだが、松岡はもちろん、杉沢も何も教えてくれないのだ。 だからこそ気になる。 高来は悪いことだとは思いながらも、立ち聞きせずに入られなかった。 そして、 高来自身も、この盗み聞きがすべての始まりになるとは思いもしなかった。
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