211人が本棚に入れています
本棚に追加
そして気がつくと、さっきよりも空が確実に近くなっていた。
下のほうからも言葉にならない声がする。
それは女の人の悲鳴だったり、男の人の「やめろ」という叫びだったり様々だ。
けれどそんなの今の俺には関係ない。
だって、
俺は今から〝自殺〟するんだから。
「ねぇ君……。本当に、死ぬの?」
不意に周りの雑音が全て消えて、その声だけが鮮明に聞こえた。
振り向けばフェンスの向こう側。
そこに佇む1人の青年。
歳は同じぐらいだろうか。
「ねぇ、本当に死ぬの?」
再度問われ、俺はゆっくりと頷く。
「こんな色のない世界、つまらないじゃん。そんなの、死んだ方がいい」
また下の奴らみたいに〝やめろ〟とか〝考え直せ〟とかくだらないことを言うのかと思った。
でも彼は、無表情で「そっか」と答えただけだった。
しばらく2人の間に沈黙が流れる。
この時、飛び降りればよかったのかもしれない。けれど俺にはそれが出来なかった。
「これはひとつの提案なんだけど、」
また唐突に話し出した彼。
俺は再び視線を彼に戻しが死ぬ理由はなくなるよね?」
にっこりと、満面の笑みで語られた提案。
彼は俺がその提案に必ず乗ると思っているのか、両手を広げ呟いた。
「おいで。
俺が君の世界を、変えてあげるから」
俺はフェンスを飛び越え、彼の腕の中に飛び込む。何故か涙が溢れた。
そのまま俺は、彼の腕の中で小さな子供みたいに声をあげて泣きじゃくった。
「じん!!」
あの日のことを思っていると、突然後方から名前を呼ばれ、振り返る前に抱き締められた。
「かめ。どうしたの?」
こんなことする奴は1人しかいないとそいつに声を掛ければ「どうしたじゃねぇよ!!傘もささずに……」とブツブツ文句を言っいてる。
そんな彼の姿に笑みが溢れ、クスクス笑っていると頭を小突かれた。
「なに笑ってんだ、ばかじん」
「何でもない!!それよりかめ!!」
「ん?なに?」
「俺の世界に色をつけてくれてありがとう!!!!」
END
最初のコメントを投稿しよう!