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その夜、近藤の発案により試衛館道場では真琴の歓迎会も兼ねて宴が行われることとなった。
しかし幾人も食客を抱えた片田舎の貧乏道場のことだ。宴といっても、普段の夕餉よりも少し気合いの入った料理と安酒を皆で囲む程度の小宴会である。
真琴は全力で遠慮の意を示したのだが、近藤は「こちらとしても酒を飲むにはいい機会なのだから遠慮は無用だ」と明るく笑い飛ばした。
「それでは一同!乾杯!」
皆一斉に、近藤の音頭に合わせて杯を掲げる。
真琴は酒は飲めないが、形だけでもということで半分ほど酒の注がれた杯を皆と同じように掲げた。
「また酒か……!」
「まだ頭がガンガンするぜ……」
酒の席となると普段の二倍も三倍もうるさい原田と永倉も、昼間まで飲み潰していたおかげですっかり参っていた。
その隣で、置いてけぼりをくらった腹いせに藤堂が見せつけるかのように美味そうに酒を煽る。
すると二人は、藤堂には負けるものかと躍起になって、気分の悪さなどお構い無しに杯を傾けた。
「そういや、俺が寝てる脇に水を置いといてくれたのって誰だ?」
杯の中身をさっさと飲み干し一息ついた永倉が問うと、原田が「真琴ちゃんだよ」と即答した。
「おお、あんただったのか。わざわざありがとよ!」
「いえいえ。相当酔っていたみたいですし、また無理しないよう気をつけて……」
「わーってる、わーってる!あ、おつねさん!酌してもらっていいっすか?」
――言った傍から早速二杯目……!?
ついさっきは頭がガンガンすると言っていたはずだが、永倉はそんなことはすっかり忘れている様子。
この調子では明日もきっと二日酔いだろうと思い、真琴は呆れて小さく溜め息をついた。
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