526人が本棚に入れています
本棚に追加
都心を少し外れた住宅街の中に佇む小さな道場があった。
名を桜木剣術道場といい、門下生は小学生から大学生までの男女合わせて十人ほど。
師範はこの道場の主・桜木義和という齢六十二の男ただ一人である。
しかし、規模が小さいからこそ義和の教えは門下生一人一人に隈無く行き渡り、大会などでも注目されるような選手を何人も生み出してきた。
この日、桜木剣術道場は隣町の道場と練習試合を行っていた。
素足が床に擦れる音と、竹刀同士がぶつかり合う乾いた音が賑やかに鳴り響く。
「やぁぁぁぁぁ――――!!」
対峙している二人のうち、ひときわ身体の小さい方が相手の隙をついて大きく踏み込み、素早く竹刀を打ち込んだ。
スパァァン!と心地の良い音を立て、竹刀は確実に相手の面に直撃した
「面有り!勝負有り!」
その判定に、道場の中はどよめきたった。
「すげぇ……。あのちっこいの、何者だ?」
「まさかうちの金澤さんがこうも簡単に負かされるとはなぁ……」
挨拶を終えて引いていく小さな姿を目に、ヒソヒソと小学校高学年ほどの少年二人が噂をしている。
金澤という少年は彼らの道場きっての腕前を持っていて、練習試合で負けるなんてことは今まで滅多に無かったのだ。
「どうだ、坊主!アイツがわしの可愛い孫娘さ!」
「「うわぁあぁ!」」
背後からゴツゴツと骨張った手が伸びてきて、少年達の小さな頭をガッと掴んでグリグリとめちゃくちゃに撫で回した。
「さ、桜木先生!」
「おうよ!」
少年が振り替えると、声の主である桜木義和は刻まれたシワを更に濃くしながら人懐こい笑みを浮かべた。
「孫娘って?あのちっこいの、まさか女なんですか!?」
「当たり前じゃ!アイツほど別嬪な女子など、なかなかおらん!」
「えー!?」
最初のコメントを投稿しよう!