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着替えが終われば、さっそく朝食の準備だ。
これも見ているだけで良いとおつねに言われたが、真琴は「さすがにそれは悪い気がするので」と頼み込み、勝手場に立たせて貰うこととなった。
共働きだった親の代わりに料理をする機会も多かったため、真琴にも人並みくらいの腕はある。
しかし現代にあった便利な器具を使わずして普段通りの出来のものを作れるかどうかというのが問題だった。
まず釜戸の使い方がわからないので、とりあえずのところは食材を切ることが真琴の担当する仕事だ。
「おつねさん、お豆腐切れました」
「ありがとうございます。では、この鍋の中に」
「はい!」
勝手場で料理の手伝いをするというあまりに日常的すぎる行為に、真琴はひどく懐かしい気持ちを覚えた。
小さな頃はこうしてよく母の隣で料理を習ったものだ。
おつねは25才、真琴は17才。
母子ではなく、年の離れた姉妹という方が合っているだろうか。
おつねが下準備をきちんと済ませていたおかげで、朝食は思いの外手早く作り終わった。
出来上がった料理を皿に盛り付けている途中、屋敷のどこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
おつねは「あっ」と小さく声をあげて、その方向を見やる。
「赤ちゃんがいるんですか?」
「ええ、たった今起きたところなのでしょう。ちょっと失礼します」
真琴に盛り付けを任せて、おつねは一度勝手場を出て行った。
麦飯と味噌汁と漬物を全てお椀によそい終わった頃に、おつねがおぶい紐をして戻ってきた。
「すみません。お待たせしました」
「わぁ、可愛い!名前は何と言うんですか?」
「たまと申します。今年の2月に生まれた子です」
たまは寝起きで機嫌が悪いのか、おつねにおぶわれてもまだぐずっている。
どうにか泣き止ませようとあやすこの母親の姿が初々しくて、真琴は心の奥に何か温かいものを感じた。
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