参『』

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そうしてようやく重い水瓶を運び終えて軽く一息ついていると、玄関先ががやがやと騒がしくなってきた。 来客か何かかと思って覗きに行くと――顔を真っ赤にして半ば泥酔状態の男二人が肩を組み合ってヨロヨロと屋敷に入ろうとしている。 そのうちの片方が足を縺れさせて、二人とも地面に倒れ込むように転んでしまった。 「だっ、大丈夫ですか!」 真琴は慌てて草履を履いて二人の男に駆け寄る。 彼等の周囲には濃厚な酒の匂いがただよっていて、思わず顔をしかめそうになった。 肩を揺すると、そのうちの一方が身体を起こした。もう一方は完全に眠りについているらしい。 「……」 男は片方の手で頭を押さえて、目の前の真琴の姿を座った目でまじまじと見つめる。 酔っ払ってだらしない顔をしているが、この男、けっこうな美男子だ。 何も言わずに見つめられたものだから、真琴はどぎまぎした。 「あっ、そうだ!お水をお持ちしま……きゃああ!」 「お佐代ぉぉぉ!お前また美人になったんじゃねぇかぁ?」 何が何だか意味がわからなかった。 とりあえず、自分が熱い抱擁を受けていることだけは理解できた。 ――……お佐代って? どうやら真琴は人違いを受けているらしい。 「んーっ!んっ、んむっ!」 きちんと喋ったつもりでもなかなか声になってくれないため「離してください」と訴えるように男の胸板を叩いてみたが、なかなか放してくれそうにない。 すっかり困り果てていると、ガツンと鈍い音がして真琴は解放された。 「っててて……」 「馴染みの遊女と間違えてんじゃねえよ、この馬鹿原田!」 胴着姿の土方が男の背後から拳骨による制裁を与えたのだった。 人違いであることを指摘された原田は、目を細めてもう一度真琴の顔を凝視する。 「……ねえちゃん、誰だ?」 「ほら見ろ、全然違うだろうが。真琴、大丈夫だったか?何かされなかったか?」 「いえ、そんなことありません!大丈夫です!」 ――原田……左之助さんか。 新選組の槍の名手との衝撃的すぎる出会いに、真琴は苦笑した。 ちなみに先程から綺麗に忘れ去られているが、原田の隣で情けなく眠りこけている男は、沖田とも肩を並べる剣豪・永倉新八である。
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