2.君との出会い

5/6
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「ふぅ…結構歌ったな。これ位でいい?」 「うん、うんありがとう!」 全8曲を歌い終わった頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。 時計を見ると、夜8時を回っている。 「んじゃ俺そろそろ親に怒られるから帰るけど、送んなくて平気?」 「あっ…待って、春樹君!」 ギターをケースにしまい込み、帰る支度を始めた俺を慌てた様子で彼女が呼び止める。 「ん、何?まだ何か?」 「ごめんね、ちょっと待ってて!!」 そう言うと、彼女は何を思ったのか、手に提げていた鞄をがさがさ漁り出すと、何故か五千円札を中から抜き取った。 何をする気だ…。 あまりの突然の行動に、呆気に取られて見ていた俺に突然彼女はこう言った。 「春樹君!手ー出して!!」 「へ…?」 無理矢理俺の手をひっ掴むと、彼女はその五千円を握らせた。 「いーよ!いらねーよ、こんなの!!」 「だっ…だってTVとかでよく見かけるじゃない。路上で歌ってる人のギターケースの中にお客さんがお金入れるの」 「あのなぁ!今時そんなことやってる人めったにいないから!こんなの受け取れるか!! それにこんな額出す客めったにいねーから!小銭で充分だよ!」 「そうか…知らなかった」 ポツンとそう言って、彼女は手にしていたお札をしげしげと見つめた。 ひょっとしてこのオンナ天然じゃ…。 呆れている俺を尻目に、彼女は少しためらった後、再度俺の手にお札を押し込んだ。 「だーかーらっ、いらないって!」 「いいの!ホントにあなたの歌良かったから!気持ちだと思って受け取って欲しいの!!」 「でも…」 まだためらっている俺に、彼女がパッと瞳を輝かし突然とんでもないことを言い出した。 「そーだっ、いーこと思いついた!」 「え?」 「じゃあさ、春樹君来週から毎週水曜、ここに歌いに来て!私の為にここに歌いに来て欲しいの!」 何を突然言い出すんだろうと呆気に取られて彼女を見つめた。 冷静に考えて、いや考えなくてもかなり図々しいことを頼まれているのは確かだ。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!