3.変わっていく何か

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生活指導の筒井にまた呼び出しを食らったのだ。 しかも延々30分のお説教付きで。 大体お前らの考えていることは甘いんだとか、俺が学生の頃はこうだったんだぞとか 耳にタコが出来るほど聞いてきた、大人達の『昔はこうだったんだ話』を延々と。 俺から言わせて貰えば時代と共に、人間が変化するのは当然だと思うのだが。 教育熱心なのは分かるが、ここまで行くともう病気だ。 むしろストレスの捌け口に、いつまでたっても進路の定まらない俺を利用しているのではないかすら思う。 俺ならば進路指導という名目で、好きなだけ説教出来るだろうから。 そういう天の邪鬼な事しか思い浮かばない程、この頃の俺は本気で参っていた。 八つ当たりがいけないことだとは、よく分かっていた。 だけどその時の俺は、言わずにはいられなかったのだ。 そんな俺を、心底意外そうな目で沙雪が見つめている。 「春樹君は…これから歌って行くことに自信が無いの?」 いきなりの確信をついたような沙雪の質問に、俺の鼓動は一瞬、ドクッという大きな音をたてる。 「どうしてそう思うんだよ」 「だって」 一呼吸置いて沙雪は言った。 「春樹君、諦めてるように見える」 あ…。 その言葉で。 ここ何ヶ月か、胸の中に蓄積され続けて来た想いが、一気に溢れ出すのを感じた。 描いている理想と、目の前にある現実との温度差。 どんなに周りに自分の夢を伝えようとしても、分かって貰えないことに対する、苛立ち、不安、焦り。 一心不乱に歌っていても誰の心にも響かない切なさ。
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