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「進路希望調査見たぞ。まだお前はこんな夢みたいなこと言ってんのか」
わざわざ呼び出されて何かと思ったらまたこの話か。
「もう高2の三学期だぞ。そろそろマジメに考えたらどうだ?」
「俺はいたってマジメですよ、筒井先生」
「あっこらっまだ話は終わっとらんぞ!」
引き留めようとする先生に背を向けて、ストーブの温もりが心地いい職員室を後にする。
職員室を少し出た廊下で教師達のこんなやりとりが聞こえてきた。
「うーんうちのクラスの赤坂なんですが、進路希望の第一希望に“歌手”と書いてきましてね。
全く何を考えているんだか…」
うるせーなもう、ほっといてくれよ。
俺の名前は赤坂春樹。
受験を来年に控えた高校2年生。
12月半ば。
日本中が浮かれムードの中そうそう浮かれてもいられない現実が俺を苦しめていた。
高1の今頃は俺の夢を聞いて、
『夢を持つのはいいことだ。温かく見守る』
とか言ってた生活指導担当の筒井って先生が近頃やたらうるさい。
『歌手なんて限られた才能のある人しかなれないんだから、もっと冷静に将来を考えろ』
だの
『保証された未来のない芸能界で、ちゃんとやって行けるのはほんの一握りなんだ。後々後悔することになるぞ』
だの、ことごとくケチをつけて、俺に安定した大学や専門学校の進学を勧めてくる。
どんなに言われても俺は進路を変える気はないけど、たまに思う。
『安定した未来』
『約束された保証』
はそんなに素晴らしい物なのか。
自分の夢を実現しようと頑張ることは、“確証がない”から、馬鹿げているのだろうかと。
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