1.夢と現実

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「進路希望調査見たぞ。まだお前はこんな夢みたいなこと言ってんのか」 わざわざ呼び出されて何かと思ったらまたこの話か。 「もう高2の三学期だぞ。そろそろマジメに考えたらどうだ?」 「俺はいたってマジメですよ、筒井先生」 「あっこらっまだ話は終わっとらんぞ!」 引き留めようとする先生に背を向けて、ストーブの温もりが心地いい職員室を後にする。 職員室を少し出た廊下で教師達のこんなやりとりが聞こえてきた。 「うーんうちのクラスの赤坂なんですが、進路希望の第一希望に“歌手”と書いてきましてね。 全く何を考えているんだか…」 うるせーなもう、ほっといてくれよ。 俺の名前は赤坂春樹。 受験を来年に控えた高校2年生。 12月半ば。 日本中が浮かれムードの中そうそう浮かれてもいられない現実が俺を苦しめていた。 高1の今頃は俺の夢を聞いて、 『夢を持つのはいいことだ。温かく見守る』 とか言ってた生活指導担当の筒井って先生が近頃やたらうるさい。 『歌手なんて限られた才能のある人しかなれないんだから、もっと冷静に将来を考えろ』 だの 『保証された未来のない芸能界で、ちゃんとやって行けるのはほんの一握りなんだ。後々後悔することになるぞ』 だの、ことごとくケチをつけて、俺に安定した大学や専門学校の進学を勧めてくる。 どんなに言われても俺は進路を変える気はないけど、たまに思う。 『安定した未来』 『約束された保証』 はそんなに素晴らしい物なのか。 自分の夢を実現しようと頑張ることは、“確証がない”から、馬鹿げているのだろうかと。
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