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いつも通りに、自分の場所を取り腰をおろし、ギターを持つと、自分で作詞作曲をしているノートを広げた。
その中で一曲を選び、いつもと同じ調子でギターを膝の上に乗せ、演奏を始めた。
『傷ついた君の心 誰も分かることはできない
だけどね 閉ざした心解き放ち
目の前に広がる景色を僕が約束するよ
痛くて苦しい夜もあるさ だけどみんな
そんな想い抱え生きてる
誰もが 孤独を旅している』
これはまだ俺が彼女とうまく行っていた時、友達との仲がギクシャクしていると悩む彼女を、勇気づける為に作った曲だった。
初めて誰かの為に作った曲だけに、他の自作曲より思い入れが強い。
だけど歌うたび、初めてこの曲を披露した時の喜ぶ顔が浮かび、胸が痛んだ。
未練たらしく、まだ彼女のことを考えている自分に嫌気が差し、演奏を中断し、他の曲に変えようとノートを捲る。
その時だった。
ん…?
ふいに誰かの気配を近くに感じた。
なんだろう…。
半信半疑のまま、床に落としていた視線を上に上げる。
黒い靴を履いた白い足が目に止まった。
ん…誰だ?
そのまま顔を上げる。
すると…
1人の見知らぬ女の子が少し屈んだ姿勢でこちらを見つめている。
目が合うと、その女の子は待っていたかのように言った。
「初めまして。いつもここで歌ってるの?」
「え?」
思いがけない出来事に、その時はどう返事していいか分からず
目の前にいる少女をただただポカンと見つめていた。
それが後に俺の人生を劇的に変えることになる女の子、日野沙雪との
運命的な出逢いだった。
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