プロローグ

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    どこにいても、止むことのない蝉時雨(せみしぐれ) 目が(くら)みそうなほど眩しい太陽の熱は、アスファルトをジリジリと()き、陽炎(かげろう)が立ち上る 賑やかな市街地から少し離れた郊外に、たくさんの緑に囲まれ、ひっそりと(たたず)む薄茶色い外観の建物。 一見マンションのようにも見えるそれには、 『介護付き老人ホーム ひまわり』 と名称が掲げられており、そこの広い敷地内にある駐車場に、一台の白いスポーツワゴンが静かに滑り込んできては、止まった。 エンジン音が止み、ガチャ、と運転席のドアが開くと、中から背の高い男がするりと降りてくる。 ドアロックを掛ける電子音が、(けたたま)しい蝉の鳴き声にかき消された。 降り注ぐ太陽の熱に項垂(うなだ)れるように、男は俯き加減で建物へと向かってゆっくりと歩き出す。 男の手には、夏らしいヒメヒマワリのミニブーケと、小さな紙袋が提げられていた。
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