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「お祖母さん」
たくさんの笑い声で賑わう中、背後から耳打ちするように声を掛けると、グレーの、ゆるいウェーブがかったショートヘアの老女がぴくりと肩を揺らし、振り返る。
彼を見た途端、彼女は花が咲いたように微笑み、「いらっしゃい」と言った。
その表情は彼とよく似ている。
「皆さん、とても楽しそうですね」
“山本”は、祖母の隣の空いている椅子にそっと腰を下ろすと、彼女に顔を寄せて小さく話した。
「とってもおもしろいのよ!
あの男の人の動きが可笑しくて可笑しくて…」
舞台でへんてこりんな動きをしているひょっとこ男を指差しながら祖母が答えると、ホール全体にどっと、大きな笑いが起こった。
彼女もお腹を抱えて笑っており、ここにいる誰もが抱腹絶倒といった感じで笑い転げている。
皆、本当に楽しそうだ。
“山本”は楽しそうに笑う祖母を見ながら目を細め笑みを浮かべると、今日も彼女が穏やかに過ごせていることに、心底安堵した。
しばらく祖母を見ていた“山本”だったが、再び沸き起こった笑い声で我に返ったように、舞台の方へと目を向ける。
祖母も楽しんでいるようだから、自分も楽しませてもらおうと、椅子に深く腰掛け直した時だった。
あちらこちらで、常に絶えない笑い声。
ほとんどが老年者ばかりのホールに、一際高い笑い声が混じっていることに気が付く。
若い女性職員の笑い声かと、その声がする方に何気なく目を向けると、明らかに職員ではない、中学か高校生くらいの女の子の姿が目に入った。
──誰かのお孫さんだろうか?
少し距離があるうえに真正面から見えるわけではないので、はっきりとはわからないが、その横顔からは、柔らかい雰囲気の可愛らしい顔立ちであろうことが伺い知れる。
普段接している生徒たちよりはどことなくあどけなさも感じられるので、きっと中学生くらいなのだろう。
栗色で艶のある長いストレートの髪は、カーテンの隙間から射す太陽の光を受けて、キラキラと輝いている。
彼女もまた、劇を観て心底楽しそうに、無邪気な笑顔で笑っていた。
(誰の面会だろう…?)
この老人ホームに通い始めて、初めて見る女の子だった。
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