95人が本棚に入れています
本棚に追加
———数ヶ月後。
「ちょっとあなた!!
女子生徒は肩を超える長さの髪は縛るという規則でしょう?!」
とある高校の校門前。
神経質そうな銀縁メガネの女教師が、登校して来た女生徒の腕を掴み、ヒステリック気味の声で呼び止め、注意している。
新学期を迎え、次から次へと登校してくる生徒たちの外見や服装をチェックするため、この高校の生徒指導部に属する教師たちはそれぞれ目を光らせ、校門前に立っていた。
女教師に呼び止められた生徒は不貞腐れた態度で、女教師からの説教を聞き流している。
物々しい雰囲気の中、他の生徒指導部の教師たちと一緒に、校門の端っこであまり目立たないよう生徒たちの服装チェックをしてるふりをしながら、央佑はわからないように欠伸を噛み殺した。
(……ねむ)
ひとしきり目をシパシパさせた後、
(ダメだダメだ。今日から担任を持つっていうのに…)
心の中で独りごちながら、眠気を吹き飛ばすようにブンブンと頭を振る。
教師になって2年目で初めて担任を持つ事になり、緊張して眠れなかったなんて、恥ずかしくて言えたもんじゃない。
(なっちゃんに知られでもしたら…)
きっと馬鹿にされるだろう…と、ありありとその光景が目に浮かび、思わずため息を吐いた。
バレないようにしないと…と、自分とは反対側の端に立っている端正な顔立ちの男性教師にチラリと目を向ける。
(…っ!!)
男性教師とバッチリ目が合ってしまい、ニンマリと口角を上げ自分を見てくるので、央佑は、
(終わった…)
と、項垂れながら声なき声で呟いた。
あっという間に散ってしまった桜の木は、すっかり新緑の葉に入れ替わり、爽やかな春の風が頬を撫でるたび、サワサワと音を立てる。
「おはようございます…」
風の音にかき消されてしまいそうなほどの小さな声の挨拶が聞こえ顔をあげると、校則に背かないよう長い髪を後ろで一つにまとめた女生徒が、足早に校門を通り過ぎていく。
シワひとつない真新しい制服を身につけている事から、昨日入学式を終えたばかりの新入生なのだろう。
なのに、央佑にはその横顔に見覚えがあった。
最初のコメントを投稿しよう!