【第一夜】

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楽しそうね、と彼女は言う。 うん、とわたしは言う。 わたしたちの会話が途切れるとそこにはまた無機質な沈黙が満ちる。 相変わらず老人たちの中に口を開く人はいない。ただバスが走る音だけが、ある。 窓から外を見ると、懐かしい風景が横に流れていく。ところどころ変わっているが(あの歯医者はいつできたんだろう、とか、あそこは昔はコンビニだったよね、とか)、それでも高校生の頃とほぼ変わらない景色。 霊園の前を流れる小さな川沿いには桜が等間隔に植えられていて、春ともなれば川を覆い尽くすようなピンク色が人々の目を奪う。
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