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えぇ~、ご乗車ぁ、あありがとうぉございましたぁ、N駅~、N駅~。車がぁ、完全に停止してからぁ、お席をぉ、お立ちくださいぃ。本日のぉ、ご乗車ぁ、まぁことにぃ、あありがとうぉございましたぁ。あ、終点ん~、N駅でぇ、ございますぅ~。
すっぽりと物悲しい気持ちのまま降車口へ向かう。
運賃を料金箱に入れるとき運転手と目が合う。
運転手は、どこかいたずらっぽい笑みを浮かべながら右手で軽く制帽を持ち上げる。
わたしも軽く微笑んで会釈する。
ステップを降りきってバスの外に出ると、一気に夏の夕方の暑気が体にまつわりついてくる。
空を見上げると、西の空がほんのりとピンクに燃えていた。
さて、と伸びをしているわたしの脇を老人たちが追い越していく。その背には色とりどりのリュックが背負われている。
と、黒い大きなリュックを背負った老人が足を止め、わたしのほうをちらりと振り返って、軽く頭を下げる。
わたしはなんだか泣きそうな気持ちになって、その人にちいさく手を振る。
黒いリュックの老人はまた前を向くと、たくさんの老人の波に飲まれて駅の改札をくぐって行ってしまった。
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