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高校生の頃に毎日通学に利用していたバスに乗っている。
バスは老人で混み合っており、みなそれぞれが登山の格好をしている。トレッキングブーツ、ポケットのいっぱいついたベスト、登山帽。緑やオレンジ、赤に黒に黄色とカラフルなリュックたち。わたしの目を飽きさせない。でもたくさんの老人に囲まれてわたしは少し、所在ない。
すし詰め、と言ってもおかしくはないぐらいの混み具合なのだが、そこに話し声はない。
聞こえるのは時折の停留所案内アナウンス(えぇ~、次はぁ、職業ぉ安定所前ぇ、職業ぉ安定所前ぇ、お降りのぉお客さまはぁ、ぅお先に両替をぉ)、バスのタイヤがアスファルトのうえを滑る音、運転手がかえるギアの音と、エンジン音と排気音。霊柩車に乗っているような錯覚を起こす。
わたしは中央あたり、向かって左側に立っている。そして考える、彼はちゃんと電車を乗り換えただろうか。
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