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えぇ~、次はぁ、市民運動場前ぇ、市民運動場前ぇ、お降りのぉお客さまはぁ…
いやに冷房が効いた車内はこの夏の盛りだというのにうすら寒い。老人たちは一人も降りる気配を見せない。老人会の登山サークルのメンバーかなにかなのだろうか。みんなで終点のN駅まで乗って、そこからまたみんなで電車に乗るのだろうか。
わたしはふと自分の目の前の二人掛けの席に座る人に目を向ける。
ひとりは窓際に座る老人男性。やはり登山スタイルである。蝋でつくられた精巧な人形みたいに、目はまっすぐ前を向いていて、口の右の端が少し下にゆがんでいる。ぴくりとも動かないが、たまに耐えかねたように痙攣的なまばたきもするし、時々ふすぅ~、という音を立てて大きく鼻から息を吹き出したりしているから、生きているとわかる。目をあけて寝ているのかも知れない。
そして通路側に座る人を見た時、わたしは思わず小さく息をのむ。
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