夫の決断

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  「…実也子大好きだよぅ」 「あぁっ!柚子ごめんよっ!お兄ちゃんが悪かったよ!」 泣きじゃくる柚子に晴臣があわてふためいている。 そんな兄妹を見て、さっきまで怒っていた実也子は「馬鹿じゃん!」と可笑しそうに笑っていた。 柚子が泣き止んだ後、実也子と晴臣は帰って行った。 ひとりで帰れると言い張る実也子に、晴臣が送ると言って聞かず、わぁわぁと言いながら病室を去って行った。 明らかに晴臣を嫌っている実也子に、やたら実也子を気に入っている晴臣。 その意表をついたカップリングに柚子はニヤニヤが止まらなかった。 柚子は翌々日に退院となった。 しばらくの自宅安静を言い渡され、鉄剤とビタミン剤をどっさり処方された。 柊太朗は結局、あれから一度も顔を出さなかった。 もう期待しないと決めていたのに、会えないことに落胆する自分が柚子は情けなかった。 晴臣がもう一度来て、自分のマンションに来るよう言った。 最近は病院経営の方が忙しくて、そのマンションにはほとんど帰っていないからと説明した。 確かにいつまでも実也子の所に世話になるのも心苦しい。 柚子はアパートを見つけるまで兄の厚意に甘えることにした。 実也子にその事を伝えると、「いつまでいても構わないのに」と言ったあと、「兄妹の溝を埋める良いチャンスかも」と言った。 とりあえず晴臣は実也子から悪い印象は取り除けたらしい。 柚子はひとり退院の手続きをしようと荷物を持って外来の事務にいた。 手続きを待つ間もどこかで柊太朗に会えないかと期待している自分に気づき、また自己嫌悪に陥る。 いい加減忘れなきゃ――。 そうため息をついた時、後ろから誰かに「すみません」と声をかけられた。 振り返るとそこには穏やかな風貌の年配の看護師が立っていた。 「あの、真崎先生の奥様?」 「あ…」 柚子がなんて答えるべきか言葉に詰まっていると、その看護師は考えを察したかの様に微笑んだ。 「突然ごめんなさいね。私外来の看護主任の松原といいます」 優しそうなその女性は、穏やかな声でそう話した。 「あ…いえ…いつもお世話になっております」 結局なんと名乗るべきか分からず、無難な返答をした。 「退院ですか?」 「はい。お世話になりました」 柚子はペコッとお辞儀をする。  
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