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「ゆず~。あんたそんな生活でいいの?」
ある晩、柚子と実也子は久しぶりにとあるダイニングバーで夕食をともにしていた。
柚子の日常を聞いた実也子の反応は予想通りで、柚子はなんだか嬉しくなる。
「ヘラヘラしないの!何!?セレブってそんなくだらない人たちばっかなの!?」
ビシッとスーツを着込んで、長い髪をひとまとめにしているその姿はキャリアウーマンそのもの。
実際、某商社でバリバリ働く彼女は、その綺麗な顔に苛立ちを露わに親友を睨んでいた。
「実也子。好き」
「あんたに告白されても嬉しくないわよっ!」
「えへへー」
実也子は相変わらずな柚子を睨むとあきらめた様にため息をついた。
柚子と実也子は高校の時に出会った。
美人でなんでもできる姐御肌の実也子に、なんの特徴もない地味なお嬢様の柚子。
実也子はいち早く柚子の押し隠した本来の性格に気付くとなんだか放っておけなくなって今に至る。
柚子は人の感情に敏感で、実は賢くて機転の利く、優しい性格だった。
それに程よく天然でなんだかかわいい。
柚子はそんな姿を実也子の前でだけは晒すことができた。
「…こんな生活が一生続くのよ?いいの?」
真剣なまなざしで見つめられて柚子は寂しげに微笑む。
「仕方がないことだから。決められた運命なの」
実也子はそんな柚子の台詞が気に入らずグラスのワインをぐびっとあおるとふんっと鼻を鳴らす。
「あんたねぇ…」
――怒った顔も綺麗だなぁ。
柚子は嬉しそうに実也子の顔を見つめていた。
「ゆず~。あたしもあんたのことが好きよ」
「あは。両想いだ」
柚子の戯言はスルーして実也子は続ける。
「好きだからこそ幸せになってもらいたいのよ」
「あたし実也子さえいてくれたら構わないもん」
柚子のことを真剣に想ってくれる親友がひとりいれば十分だった。
「…あんたが変わらなきゃ何も変わらないのよ?」
実也子の言葉にドキッとする。
「…でも実也子…」
「よし!決めた!」
残りのワインを一気に飲み干すと柚子を無視して実也子は意を決した。
「あんたが幸せになるまであたしは結婚しない!!」
「…へっ!?」
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