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「柚子が幸せになるまであたしは一生結婚しません」
ゆっくりと繰り返す。
そして不敵な笑みを浮かべる。
「だっ…だめだよ!そんなのだめ!!」
「じゃ、あんたがまず幸せになりなさい」
焦る柚子に対してあっさり言い放つ。
「…でも…お金には不自由してないし…あたしには美也子がいるし…十分幸せだよ?」
「そういう意味じゃないこと。分かってるでしょ?」
困った顔をする柚子に実也子は間髪入れずに言う。
「…うん。分かってる…。でも…実也子」
――私、そんなのはとっくに諦めたんだよ?
「でももストもないの!」
「…表現が古いよ。実也子」
弱々しい突っ込みは聞き流して実也子は続けた。
「幸せになるために、あたしがあんたを変える。変えてみせますとも!」
実也子が言い出したら変更不可なことはよく分かっている。
それに、自分のせいで実也子が結婚しないとなるとそれは問題だ。
――私が変わらなきゃ何も変わらない………。
実也子のその言葉は柚子の頭にじわじわと浸透してきた。
「実也子…」
「ん?何?」
実也子が残っている料理を食べながら返事する。
「本当に変われるかな?」
不安そうに、それでも真剣にそうたずねる柚子に実也子は心の中でガッツポーズを決めつつにっこり笑って見せる。
「あたしを誰だと思ってるの。それに…」
「それに?」
「あんたを誰だと思ってるの。あたしの親友の柚子よ」
実也子の台詞をきいて柚子は少し自信がついた。
そして決心する。
「分かった。あたしやってみる。何をすればいいのか分からないけど、幸せになるために頑張るよ」
「よし!じゃ早速…」
柚子の決意表明を聞くと同時に、実也子はどこかに電話をかけはじめた。
「あ、もしもし。今いい?………そう。会わせたい子がいるの。………うん。好きにしていいから」
楽しそうに会話する実也子を見ながら、早まった感が否めない柚子だった――。
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