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「時間ないんだから早くここに座りなさい!」
何故か明らかに仕事モードのアキラに急かされ、柚子は椅子に座る。
「アキラ、一体何…」
「うるさいうるさい!質問も苦情も一切受け付けないわよっ」
アキラはそう言うが早いが柚子の髪をまとめていく。
そして手早く化粧をしていく。
鏡がないため、柚子は自分がどうされているのかさっぱり分からない。
「アキラ…」
「喋らない!化粧がよれるでしょっ!」
アキラの気迫に押され、理不尽だと思いながらも柚子はされるがままになるしかなかった。
アキラによるヘアメイクが終わると、アキラと入れ替わりに先ほどの女性が現れた。
着替えるように言われ、女性に手伝ってもらいながら着替える。
着替えながら気付いた。
「…ウエディングドレスだ…」
身につけた白いドレスの見下ろす裾は長くたっぷりと広がっており、肩から二の腕は繊細なレースに包まれていた。
誰によって何のために着せられているのか。
もう、わけが分からない。
柚子は思考を停止することにした。
でないと妙な期待をしそうだった。
なるようになれとされるがままになった柚子に、白い手袋やアクセサリー、しまいにはベールまで被された。
「お綺麗ですよ」
褒められるが鏡がないため自分の姿を確認できず愛想笑いだけしておく。
「ちょっとお待ち下さいね」
女性が部屋を出て行き、柚子はひとりになった。
改めてドレスを摘んでみる。
こういっちゃなんだが、実際の結婚式に来たものよりずっとセンスが良いものの様だった。
あの時は誰があのドレスを選んだのか分からないが、やたら高級そうな刺繍とレースが目立って、絶世の美女でもモデル体型でもない柚子はドレスに埋もれてしまいそうだった。
そして、そんな花嫁に何の関心も持たない、見とれるほど素敵な花婿。
思い出して気が滅入っているところにノックの音が聞こえた。
柚子は慌てて思い出の世界から還ってくると「は、はい」と返事をした。
おそらくあの女性が戻って来たのだろう、そう思っていた。
ドアが開いて誰かが入ってきてドアが閉まる。
柚子はそこでやっと顔を上げた。
そこにはタキシードに身を包んだ柊太朗が立っていた。
「…へ?」
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